プライベートカンパニーは「節税の箱」ではなく時間をかけて育てる、もう一人の経済主体

私は、会社をうつ病で退職し、現在はプライベートカンパニーを使って週3日程度の仕事をしています。
いわゆるフリーランスです。
プライベートカンパニーという言葉を聞くと、多くの人が最初に思い浮かべるのは「節税」ではないでしょうか。
私自身、法人を持つことのメリットとして、節税が重要ではないとは思っていません。
役員社宅、旅費規程、交際費…
など、個人と法人では経費をめぐる仕組みが違います。
所得を個人だけに集中させるのではなく、個人と法人に分けて経済活動を行うことで、選択肢が増えることもあります。
ただ、実際に法人を長く運営していると、だんだん見え方が変わってきました。
プライベートカンパニーの価値は、単なる節税だけではありません。
私は今、その価値を大きく3つに分けて考えています。
①節税:お金の流れを設計する
1つ目は、もっとも分かりやすい「節税」です。
法人には、個人とは異なるお金の使い方があります。
たとえば役員社宅。
法人が住宅を借り、一定のルールに従って役員から賃料を受け取ることで、住居費の一部を法人側の費用として扱える場合があります。
旅費規程を整備すれば、業務上の出張について日当などを支給する仕組みを作ることもできます。
交際費についても、当然ながら何でも経費になるわけではありませんが、事業に必要な支出であれば、法人の活動として処理できます。
私も全部活用しています。
もちろん、これらは「法人を作れば何でも経費になる」という話ではありません。
税法上の要件を満たし、実態のある事業活動として適切に運用することが前提です。
それでも、個人ですべてのお金を受け取り、個人ですべてを支払う世界と比べれば、法人という別の器があることで、お金の流れを設計する余地は大きくなります。
一方で、法人には設立時の費用や毎年の決算・申告、税理士報酬などの維持コストもかかるため、作れば無条件に得をするものではありません。
これが、プライベートカンパニーの最初のメリットです。
ただし、私はこれを「第一段階」だと考えています。
②制度:個人だけでは弱い部分を補う
2つ目は「制度」です。
独立すると、自由になります。
その一方で、会社員時代には会社の仕組みの中に組み込まれていたさまざまな制度から離れることにもなります。
そこで法人を持つ意味が出てきます。
一定の要件のもとで健康保険・厚生年金といった社会保険制度に加入し、健康保険には傷病手当金など、働けなくなったときの所得保障につながる仕組みもあります。
厚生年金も同じです。
保険料負担だけを見れば重く感じることがありますが、老齢年金だけでなく、障害や死亡なども含めた社会保障制度の一部として考える必要があります。
さらに、法人には「信用を蓄積する器」という側面もあります。
毎年決算を行い、決算書を作り、申告を続ける。
売上があり、利益があり、資産があり、借入があり、それを返済していく。
その履歴が積み重なっていきます。
金融機関から融資を受ける場合も、個人として借りる世界とは別に、
「この法人はどのような事業を行い、どのような財務状態なのか」
という評価軸が生まれます。
もちろん、法人だから信用されるわけではありません。
赤字が続いたり、債務が過大になったりすれば、むしろ評価は厳しくなるでしょう。
重要なのは、法人には信用を蓄積していく場所が存在するということです。
これは個人事業とは少し違った世界です。
節税が「お金の流れを設計する機能」だとすれば、こちらは「人生の弱い部分を制度で補強する機能」と言えるかもしれません。
③育成:法人そのものを育てる
そして3つ目です。
私はここが、プライベートカンパニーのもっとも面白いところだと思っています。
法人は、育てることができます。
一年目の決算書と、五年目の決算書は違います。
売上が増えるかもしれません。
利益剰余金が積み上がるかもしれません。
現預金が増えるかもしれません。
不動産やその他の資産を持つようになるかもしれません。
借入を行い、その資金を事業や資産形成に投入し、返済を続けることで財務構造が変わっていくこともあります。
つまり、時間の経過とともに法人の姿そのものが変わっていくのです。
これは、節税とはまったく違う話です。
今年10万円税金を減らせた、という話ではありません。
5年、10年という時間を使って、自分とは別の経済主体を育てていくという話です。
私はこれを、PEA(Personal Economic Agent)という言葉で考えています。
自分のために働く、もう一つの経済主体です。
もちろん、法人が勝手に働いてくれるわけではありません。
最初は自分が法人を支えます。
仕事を取り、売上を作り、経理をし、税金を払い、決算をします。
ところが、それを何年も続けていると、少しずつ関係が変わってきます。
法人に資産が蓄積される。信用が蓄積される。取引実績が蓄積される。収益を生み出す仕組みが増える。
すると、最初は「自分が法人を育てていた」はずなのに、いつしか「法人が自分を支えてくれる」場面が出てきます。
ここが面白いところです。
法人は「器」であり、やがて「パートナー」になる
だから私は、プライベートカンパニーを単なる節税装置とは考えていません。
最初は、小さな器です。
そこに売上を入れ、経費を払い、税金を払い、毎年決算をする。
しかし、その器を壊さずに何年も使い続けていると、中身が変わってきます。
節税のための器だったものが、制度を利用するための器になり、信用を蓄積する器になり、資産を持つ器になっていく。
そして最終的には、自分の人生を支える経済的なパートナーになっていく可能性があります。
だからこそ、私はプライベートカンパニーを、
「節税するもの」ではなく「育てるもの」
として見るようになりました。
節税は、今期の話です。
制度は、困ったときに自分を守る話です。
育成は、これから何年も先の自分を支える話です。
この3つは、時間軸が違います。
そして時間軸を長くすればするほど、3つ目の意味が大きくなっていきます。
法人を作った瞬間には、まだ小さな箱にすぎません。
しかし10年後、その箱がどんな形になっているのかは分かりません。
自分一人では持てなかった資産を持ち、自分一人では作れなかった信用を持ち、自分が働けないときにも一定の経済活動を続ける存在になっているかもしれません。
プライベートカンパニーとは、自分の人生とは別の時間軸で育っていく、もう一つの経済主体。
そう考えると、法人を持つ意味は
「今年いくら節税できるか」
だけでは測れないのだと思います。
私のプライベートカンパニーは、ありがたいことに、来年10期目を迎えます。
1期目の時と比べると、決算書の形もかなり変わってきました。
保険が増えたり、不動産が増えたり、融資が増えたり…。
紆余曲折はありましたが、私の器も成長してきたなぁ、としみじみ感じている日々です。
